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※ネタバレした箇所があります。これから鑑賞予定の方で、予備知識なしで見たい方は、鑑賞後にお読み下さる様お願い致します。
3年前(2016年8月26日公開)に、
『君の名は。』(レビューはコチラから)が歴史的な大ヒットを記録した、
新海誠監督の新作である。
本作『天気の子』の公開前日(2019年7月18日)に、
次のようなネットニュースが流れていた。
まだ劇場公開前の新海誠監督の最新作「天気の子」に対し、映画サイトでは低評価のユーザーレビューが相次いでいる。
「天気の子」は、一般向けの試写会は実施しておらず、7月19日0時からの上映が最速となる。しかし、「Yahoo!映画」のユーザーレビューには、18日10時時点で100件の評価が存在。総合評価を表す星は5点満点中、2.67点となっている。
1点や2点をつけている「ごめんなさい。正直面白くなかったです」「『君の名は』に似ているが声優がひどすぎる」といったレビューは、予告編などで公開されている以上の情報に触れておらず、「ネタばれ」というマークが付いているレビューも同様。これらの低評価レビューは、その1件のみしかレビュー投稿していないユーザーも存在している。一方で、公開前の低評価を批判する「なにこのネガキャンの嵐」といった内容のレビューもあり、レビューが言い合いの場に発展している。
この記事を読んだ後に「Yahoo!映画」のユーザーレビューを見てみると、
ユーザーレビュー欄は一時的に閉鎖されており、(現在は解除されている)
次のような“お詫び文”が掲載されていた。
【お詫び】一部の作品において不正なユーザーレビュー投稿が多く見受けられたため、該当作品のみ一時的にレビュー投稿できない状況となっております。ご不便おかけして申し訳ありませんが、しばらくお待ちくださいませ。
最近の話題作に対するネガキャンを象徴するかのような出来事である。
『天気の子』は、一般向けの試写会は実施しておらず、
映画評論家さえ、公開前には見ていないという。
それなのに、公開前に大量の1点や2点が投下されるとは、異常な事態である。
作品を見ていなくても、
肩入れしている作品には、5点満点の大量投下(『この世界の片隅に』等)、
気に食わない作品には、1点の大量投下(『溺れるナイフ』等)。
以前は参考にしていた「Yahoo!映画」のユーザーレビューであるが、
今は(一部の心あるレビュー以外は)まったく信用できなくなってしまった。
こういう時代だからこそ、何事も自分の目で確かめることが必要なのである。
ということで、映画『天気の子』を自分の目で確かめるべく、
公開初日に映画館へ向かったのだった。

高1の夏。
離島から家出した森嶋帆高(声・醍醐虎汰朗)は、

突如発生したゲリラ豪雨で海が荒れ、
乗っていた船が大きく傾き、滑って海に投げ出されそうになるが、
須賀圭介(声・小栗旬)に間一髪で助けられる。
東京にやってきた帆高の生活はすぐに困窮し、
仕事を探すも、低年齢が理由でなかなか見つけられない。
もらっていた名刺を頼りに、編集プロダクションを経営していた須賀圭介を訪ね、

オカルト雑誌のライターとして雇われる。
帆高のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。

そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。
ある事情を抱え、弟・凪(声・吉柳咲良)とふたりで明るくたくましく暮らす少女・陽菜(声・森七菜)だった。


彼女には、不思議な能力があった。
「ねぇ、今から晴れるよ」
少しずつ雨が止み、美しく光り出す街並み。
それは祈るだけで、空を“晴れ”に出来る力だった。

陽菜は、1年前のある日、母親を病気で亡くしている。
その時、母親の完治を願うために廃ビルの屋上に在る小さな鳥居をくぐったことで、
天気を“晴れ”にする能力を手に入れたのだ。

意気投合した帆高と陽菜と凪の3人は、
「100%の晴れ女」という陽菜の能力を活かし、
「お天気、お届けします」というサイトを設け、

“晴れ”を望む人に、一時的に“晴れ”を提供する仕事を始める。

イベントの日を“晴れ”にしてほしいと頼む人、
子供と遊ぶ日を“晴れ”にしてほしいと頼む人、
初盆の日を“晴れ”にしてほしいと頼む人など、

依頼は殺到し、3人の生活も安定する。
だが、陽菜は、その能力を行使する毎に身体が徐々に透明化していく代償を抱えることになる。
当初はそのことを自覚しておらず、「100%の晴れ女」業を天職だと考えたほどであるが、
後にひょんなことからそれが自らの命と引き換えの「人柱」になる存在であることを知るのだった……

一見、ファンタジーに見えるが、
天候不順、異常気象の今の地球の現況を捉えたリアルな物語と言える。
“雨”が降り続く地球(日本)が舞台なので、
“雨”の描写が得意な新海誠監督の真骨頂が発揮された快作になっている。
一般的に、
“晴れ”は「良い天気」、
“雨”は、「悪い天気」、
と思われがちだし、言われがちだが、そんなことはなくて、
“晴れ”と“雨”に優劣の関係はない。
“晴れ”が続けば干ばつになるし、
“雨”が続けば洪水になる。
ただ、長雨の後の快晴は、清々しいし、気分爽快になる。
そんな爽快さを維持しつつ、
ラストには、「雨も悪くない」と思わせるところが、
本作の“ニクイ”ところである。

物語の後半は、
天候不順を解決するために、
自らの命と引き換えに「人柱」になった陽菜を取り戻しに行く帆高の冒険譚となる。
天空のシーンが多くなり、スケール感がある。
私は、どういうわけか(物語はまったく異なっているのに)宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』を思い出してしまった。

『君の名は。』のファンには嬉しいことに、
本作には『君の名は。』の主役二人も登場するのだ。
初盆の日を“晴れ”にしてほしいと頼む立花冨美(声・倍賞千恵子)の孫として立花瀧声(声・神木隆之介)が、
帆高が陽菜の誕生日プレゼントを買いに行った宝石店の女性店員として宮水三葉(声・上白石萌音)が登場する。
帆高に、
「こういうのって貰って喜びますか?」
と問われ、
「私だったら絶対に嬉しい」
と答える三葉は、美しい大人の女性になっているので、お楽しみに……
そして、二人が結婚したかどうかも推理してほしい……(ヒントはラスト近くの写真)

音楽を担当したのは、
『君の名は。』に続き、RADWIMPS。

新たな試みとして女優の三浦透子を女性ボーカルとして起用している。

三浦透子といえば、
『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年3月17日公開)を思い出すが、
……柄本佑、三浦透子の演技が秀逸な傑作……
とのサブタイトルを付けてこのブログにレビューを書いている。
末井昭の愛人・笛子を演じた三浦透子。

彼女の演技が、とにかく素晴らしかった。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』ではほとんど触れられておらず、
主に『自殺』の方に書かれている女性であったが、
末井との不倫関係から腐れ縁的な倦怠へ移行し、
やがて精神に異常をきたしていく女性の凄惨な顛末が描かれているのだが、
この難しい役を、三浦透子は見事に演じ切っている。

と絶賛したのだが、(全文はコチラから)
ボーカリストとしての才能があるとは知らなかった。
透子という名前の通り、透明感のある歌声が心地よかった。
「16歳で編集プロダクションのライターは無理だろう」とか、
「この物語に拳銃はいらなかったのでは?」とか、

疑問点は多々あったが、
見終わってみると、
この壮大な物語の中では、些末なことに思われた。

よく「観測史上初」などと表現するが、
たかだか数十年前からの資料に他ならない。
様々な「異常気象」という「観測史上初」の出来事も、
永い地球の歴史の中では、ぜんぜん異常でも何でもないのかもしれない。
ゲーテの言葉に、
「なぜ私は結局最も好んで自然と交わるかというに、自然は常に正しく、誤りは専ら私のほうにあるからである」
というのがある。
何か(人間にとっての)災害が起ころうとも、
「自然は常に正しい」という認識が私にはある。
同時に、「誤りは専ら私のほうにある」という認識も……
だからこそ、自然の中に身を置いていると、心地よいのだ。
映画『天気の子』は、
天候の調和が狂っていく(と思われている)時代に、
運命に翻弄される少年と少女が自らの生き方を「選択」するストーリーであった。
二人がどんな「選択」をしようとも、
自然は常に二人を見守り、正しい判断を下すのだろうと思った。
それほど自然は偉大なのだ。