
『カラマーゾフの兄弟』読了計画の第23回は、
第4部、第10編「少年たち」の、

第1節「コーリャ・クラソートキン」
第2節「子どもたち」
第3節「生徒たち」
第4節「ジューチカ」
第5節「イリューシャの寝床(ベッド)で」
第6節「早熟」
第7節「イリューシャ」
を読みたいと思う。

第4部、第10編、第1節「コーリャ・クラソートキン」

【要約】
今は亡き役人クラソートキンの(たいそう愛くるしい30そこそこの)未亡人アンナは、夫とはわずか1年ほど暮らしただけで、息子が生まれるとすぐ、18になるかならないかの年で先立たれ、以来、大事な一粒だねであるコーリャ少年の養育にすべてをなげうってきた。この14年間ずっと、われをも忘れんばかりに息子を愛してきた。コーリャが町の予備中学に進級すると、母親は息子の勉強を手伝ったり、コーリャがいじめられたりしないように様々な手を打った。その結果、子どもたちは逆に、この母親のことでコーリャを「ママっ子」とからかい、ひやかすようになった。それでもコーリャは自分を守りぬく精神力があり、抜け目なく、ねばり強く、度胸もあり、学校の成績も良かった、まもなくクラス内の評価は「めっぽう強いやつ」となった。節度をわきまえ、自分をおさえるすべを心得てはいたが、ちょっとした機会をみつけて、大いに悪ふざけに興じることもあった。7月夏休みのこと、自分が子ども扱いされるのが悔しくて、深夜に鉄道のレールの間に横たわり、列車が通り過ぎるまでそのままの状態でいることができるかどうかという賭けをおこなったのだ。コーリャはこの賭けに勝って、「命知らず」の評判が立った。この事件は、やがて町にも知れ渡り、学校にも伝わったが、教師のダルダネロフが少年のために弁護してまわり、事なきを得た。このダルダネロフは、まださほどの年でもない独身の男だったが、クラソートキン夫人に、何年にもわたって熱烈に恋していた。1年ほど前にプロポーズしかけたが、夫人はそれを受け入れることは我が子への裏切りとみなし、きっぱり断っていた。コーリャは、(ひと月ほど前に)拾ってきた犬を家に連れ込み、誰にも見せず、部屋で内緒で飼っていた。そして、この犬をしごき、ありとあらゆる芸を仕込んだ。このコーリャ・クラソートキンこそ、スネギリョフの息子が学校の仲間から「あかすり」とからかわれた父をかばおうとしてペンナイフで太ももを突き刺した相手の少年であった。
第4部、第10編、第2節「子どもたち」

【要約】
11月のある朝、コーリャは家にいた。コーリャは「ひどく大事な件で」外出する必要があったのだが、まだ出かけられないでいた。理由はこうだ。クラソートキン夫人の家の向かいに、二人の子どもを抱えた(クラソートキン夫人と大の仲良しの)夫人が住んでいて、医師である夫は、行方不明になって半年が過ぎていた。医師夫人の女中カテリーナが出産間近ということが判明し、救急施設に行くのに付き添うために急遽二人の夫人は家を空けることになり、コーリャが家の留守番と「ちびども」の見張り役をさせられることになったのだ。だが、クラソートキン夫人の女中のアガーフィアが市場に出かけており、彼女が帰ってくるまで出かけられない。やっとアガーフィアが帰ってきて、帰りが遅れた理由をコーリャが問いただすが、「ちびのくせして!」と逆に反発される。それでも子どもたちの見張りをアガーフィアにしっかり頼み、コーリャは外出したのだった。
第4部、第10編、第3節「生徒たち」

【要約】
外に出たコーリャは、広場の一軒手前にある家までくると、ポケットから呼子を取り出して、ピーと鳴らした。すると、すぐにスムーロフという少年が飛び出してきた。年は11ぐらいで、金持ちの役人の息子だった。両親から、札つきの腕白坊主でしられるコーリャとつきあうのを禁じられているらしく、こっそり飛び出してきた。スムーロフは、2ヶ月前、どぶ川をはさんでイリューシャに石を投げていた生徒の一人で、あのときアリョーシャにイリューシャの話をして聞かせた少年である。二人の行き先は、スネギリョフ二等大尉の家であった。スネギリョフの息子のイリューシャは、肺病らしく、もう一週間ももたないらしかった。二人が市の立っている広場を歩いているとき、コーリャは、「ぼくはね、スムーロフ、社会主義者なんだ」と言った。スムーロフが、「社会主義者って、いったいなんのこと?」と訊くと、コーリャは、「それはね、もしもみんなが平等で、財産も共通のものしかなくなると、結婚はなくなり、宗教も、どんな法律も、それぞれ好き勝手なものになる、で、けっきょく、ほかの残りのものもぜんぶそうなるってことを言うのさ」と答えた。コーリャは、百姓や物売り女や(番頭のような)商人の男をからかいながら歩いた。スネギリョフ二等大尉の家の手前まで来たところで、コーリャは、スムーロフに、先に入ってここにアリョーシャを呼びだしてくるように命じた。
第4部、第10編、第4節「ジューチカ」

【要約】
コーリャは、アリョーシャが出てくるのを待った。会って話がしたかった。アリョーシャに「なあんだ」と思われないように、一人前の男の顔つきをしようと躍起になった。彼が苦にしていたのは、背の低さだった。アリョーシャが姿を現し、嬉しそうな顔で近づいてきて、「やっと来てくれたんですね。ぼくたち、あなたのことをずっと待っていたんです」と言った。イリューシャの様子を訊ねたコーリャに、アリョーシャは、「イリューシャの具合がひじょうに悪いんです。まちがいなく死にます」と答えた。コーリャは、イリューシャが予備クラスに入ってきて、自分がイリューシャにナイフで刺されるまでに、二人の間に何があったのかをすべて語った。イリューシャはスメルジャコフと共に、パンの中に針を仕込んで犬のジューチカに与えるという残酷ないたずらを行っていて、その自分が行なった行為に対してショックを受けていた上に、そのことを知ったコーリャから絶縁を宣告され、犯行に及んだのだった。イリューシャは、「ぼくが病気なのは、あのときジューチカを殺したからなんだ。これは、神さまがぼくを罰しているしるしなんだ」と自分を責めていたという。コーリャは、「あとで、ひとつ手品をお目にかけますからね」とアリョーシャに言って笑った。
第4部、第10編、第5節「イリューシャの寝床(ベッド)で」

【要約】
アリョーシャは、けっしてわざとらしくなく偶然に見せかけて、一人ずつ少年をイリューシャと仲直りさせていった。しかし、ただ一人コーリャだけが姿を見せず、それが彼の心に恐ろしい重石となってのしかかっていた。イリューシャにとっても、苦い思い出のなかでもっとも苦いものといえば、自分にとってただ一人の友人であり庇護者であったコーリャにナイフをかざして飛びかかったエピソードだった。イリューシャは寝たきりになって2週間ほどが経っていた。アリョーシャの指に噛みついた事件以来、学校にも出ていないし、彼が寝込んだのは、その日からのことだった。コーリャがドアを開け、部屋に姿を現すと、二等大尉はコーリャを迎え入れるために駆け寄った。コーリャは、大尉に手を差し出し、自分が社交上の礼儀をわきまえていることを、瞬時に発揮してみせた。コーリャは、イリューシャに、「どうだい、元気にしてたかい?」と言い、手のひらでイリューシャの髪をなでてやった。そして、「犬を連れてきたんだ。覚えているかい、ジューチカを?」と言い、犬を部屋の中に呼び込んだ。勢いよく飛び込んできた犬を見て、イリューシャは、「これは……ジューチカだ!」と叫んだ。コーリャも、「ごらんよ、わかるかな、片目が潰れてて左耳が裂けている、きみがぼくに話してくれたのと、特徴がまるで同じだ。ぼくはね、このふたつの特徴を手掛かりにこいつを探しだしたんだ。こいつはあのとき、きみのパン切れを飲み込まなかったのさ。今こうやって生きているからには、うまく吐き出したってことなんだ」と叫んだ。「すごい、すごい!」少年たちもそう叫び、拍手した。コーリャは、さらに、イリューシャが見たいと思っていた青銅の大砲のミニチュアも見せてあげた。そして、「これはきみのものさ、前から用意していたんだ」と言って手渡した。そこへ、医者がやってきた。「患者はどこです?」彼は大声で、押しつけるような調子でたずねた。
第4部、第10編、第6節「早熟」

【要約】
「で、医者はなんて言うと思います?」コーリャが早口で言った。「イリューシャはだめでしょうね。ぼくにはもう、そうとしか思えません」アリョーシャは悲しそうに答えた。コーリャは、アリョーシャに、「あなたが神秘家で、修道院におられたことは耳にしています。あなたが神秘家なのは知っていますが、あなたを尊敬する気持ちは変わりませんでした。現実に触れればそれも矯正されるでしょうし……」と言うと、「何が矯正されるんです?」というアリョーシャの問いに、コーリャは、「神さまとか、ほかの何とかです」と答えた。「きみは神を信じてらっしゃらない?」とアリョーシャが再び問うと、コーリャは、「いや、逆ですよ。ぼくはべつに神にさからう気持ちなんて少しもないんです。もちろん、神なんてたんなる仮説にすぎませんがね……ただ……神が必要であることは認めます、秩序のためにです……世界の秩序やその他のもろもろのためにですよ……それにもし、神がいなかったら、神を考え出さなくちゃいけないでしょうし」と、顔を赤らめながら答えた。「ぼくは社会主義者です」とコーリャが告白すると、アリョーシャが、「いったい、いつそんなものになられたんです? だって、まだ13でしょう、たしか」と言ったので、コーリャは、「あと2週間で14です。それに、年齢となんの関係があるんです?」と顔を真っ赤にして答えた。アリョーシャは、「きみがもっと年をとったら、わかりますよ。年齢というものが、人の信念にどんな意味をもつかがね。ぼくはきみが、自分の言葉で話しているようには思えなかったんです」と、遠慮がちな、おだやかな調子で答えた。アリーシャはコーリャの話す内容がだれかの受け売りであることを見抜き、「みんなと同じ人間になってはだめなんです。たとえ一人きりになっても、きみだけはやっぱりみんなと別の人になるんですよ」と諭した。そして、最後に、「でも、いいですか、コーリャ、きみは将来、とても不幸になります」と、ふいに口走ったのだった。
第4部、第10編、第7節「イリューシャ」

【要約】
医師が部屋から出てきた。二等大尉は医師のうしろから一目散に飛び出してきて、医師を引きとめ、「閣下、閣下……さっきのは、ほんとうですか?」と問うた。「手のほどこしようがありません! わたしは神さまじゃありませんのでね」と、ぞんざいながら、おきまりのしんみり声で医師は答えた。二等大尉は医師を何度も引きとめ、何か他に手立てはないのかとしつこく訊いた。「患者さんを(シチリア島の)シラクサあたりにでも転地させることができれば、万が一、ということもありえますが……」と医師が言ったので、二等大尉は、「シチリアですって! だって、こんなありさまなんですよ!」と絶望にかられ、部屋の家具調度や玄関の丸太の壁を指さした。「いや、それはわたしとは関わりのないことでして!」と、医師はにやりとふくみ笑いを浮かべて言った。コーリャと二等大尉が部屋に入ると、イリューシャは二人を抱きしめ、「パパ、泣かないでよ……ぼくが死んだら、別のよい子をもらってあげて……あの子たちのなかから、自分でよい子を選んで、イリューシャと名づけて、ぼくのかわりにかわいがってあげてね」と言い、「でも、パパ、ぼくを、ぼくのこと、ぜったいに忘れないでね」と付け加えた。コーリャは、イリューシャに対して、「また戻ってきて好きなだけ話をする」と伝え、早足で家路についた。
この第4部、第10編「少年たち」では、
ミーチャの物語はいったん中断され、
アリョーシャと知り合った小学生たち、
とりわけコーリャ・クラソートキンという少年を中心に、
物語が進んでいく。
父殺しの事件を中心に進んできた物語に、
なぜ、少年たちの挿話に一遍が割かれているのか……
訳者の亀山郁夫によると、この少年たち(特にコーリャ)は、
このあと書かれる筈だった「第二の小説」で、
中心的な役割を担う人物だったからだそうだ。
「第二の小説」の要点は、
この少年たちとアリョーシャが続編において実行するであろう、
「皇帝暗殺」という、第二の父殺し。
これは、生前のドストエフスキーと親交があった人たちの証言や、
序文との整合性などから、
おそらく確かな構想であったと思われる。
つまり、この第4部、第10編「少年たち」から、
「第二の小説」が早くも始動しているということなのだ。
そして、「第二の小説」の中心人物になるであろうコーリャに対し、
アリョーシャは、
「でも、いいですか、コーリャ、きみは将来、とても不幸になります」
と予言めいたことを言っている。
「第二の小説」がどんなものであったのか……
想像するだけでも楽しい。
