
大好きな小松菜奈の主演作(菅田将暉とのW主演)ということで、
待ちに待っていた作品である。
1998年にリリースされた中島みゆきのヒット曲「糸」をモチーフにした作品で、

小松菜奈の他にも、
榮倉奈々、山本美月、二階堂ふみなど、
私の好きな女優も多く出演している。
監督も私の好きな『最低。』『菊とギロチン』の瀬々敬久であり、

もう期待しかない作品であった。
当初は今年(2020年)4月24日に公開予定だったが、
新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開延期となり、
約4ヶ月後の8月21日に公開されることが決まった。
【小松菜奈のコメント】
いつもの日常が180°変わった今。
会える事が当たり前で過ごしていた中で、
会ってはいけないという選択肢に変わることってあるんだ。
会わない事が相手を救える
何度考えてもやっぱり不思議な日々でした。
失うものあれば得るものもある
色んな事を感じ、考える時間の中で改めて
人と人のつながりこそが救いだと感じました。
そんな中、映画 糸 公開される事が決まり
素直にとても嬉しく思います。ありがとうございます。
皆さんの今にどう映るのか、
楽しみにしていて欲しいです。
この“糸”が
人と人との仕合わせにつながりますように
そう願っています。よろしくお願いします。
小松菜奈のコメントも届き、期待して待つ中、
そこへ、さらに嬉しい知らせが……
8月12日の(1日限定での)先行上映が決まったのだ。
その日は仕事であったのだが、
仕事終了後に、急いで映画館に駆けつけたのだった。

平成元年生まれの高橋漣(南出凌嘉)と園田葵(植原星空)。

北海道で育った二人は13歳の時に出会い、初めての恋をする。

そんなある日、葵が突然姿を消した。
養父からの虐待に耐えかねて、町から逃げ出したのだった。

真相を知った漣は、必死の思いで葵を探し出し、駆け落ちを決行する。
しかし幼い二人の逃避行は行く当てもなく、すぐに警察に保護されてしまう。
その直後、葵は母親(山口紗弥加)に連れられ、北海道を去ることになった。

その事を知らなかった漣は見送ることすらできないまま、二人は遠く引き離された……

それから8年後。
地元のチーズ工房で働いていた漣(菅田将暉)は、

友人の結婚式に訪れた東京で、葵(小松菜奈)との再会を果たす。

北海道で生きていくことを決意した漣と、
世界中を飛び回って自分を試したい葵。
すでに二人は、それぞれ別の人生を歩み始めていたのだった。
そして10年後、
平成最後の年となる2019年。
運命は、もう一度だけ、二人をめぐり逢わせようとしていた……

平成元年に生まれた男女の18年間を平成史とともに描いていく……
というストーリー展開には既視感があった。
そうだ、今年(2020年)3月に見た映画『弥生、三月 -君を愛した30年-』と同じだ。
『弥生、三月 -君を愛した30年-』の方は昭和(1986年)を起点にしていたものの、
ほぼ平成の物語であったし、
同じ東宝の配給であるし、
平成史の中でも特筆すべき東日本大震災が重要な出来事として取り入れられているし、
成田凌がどちらの作品に出演しているし、
男の主人公がどちらもサッカー選手を目指していた……
というような共通点が多く、
「似ている」感が否めなかった。

この手の映画は、なきにしもあらずで、
メグ・ライアンの『恋人たちの予感』は、
ある男女の11年間にわたる友情と愛を描いてる映画であったし、
アン・ハサウェイ主演の映画『ワン・デイ 23年のラブストーリー』は、
7月15日だけで23年間を描いていたし、
『あと1センチの恋』も、
“友達以上、恋人未満”の幼なじみが12年間すれ違う話であった。
と、『弥生、三月 -君を愛した30年-』のレビューにも書いた通り、
この手の映画は類似作が多いので、そういう意味でも新鮮味に欠けた。
それでも『弥生、三月 -君を愛した30年-』の方は、
30年間を、季節の変わり目、人生の変わり目である3月の出来事だけで紡いでいく……
というところに遊川和彦(監督・脚本)の工夫が見られたが、
『糸』の方は短時間でストーリーのみを追いかける鉄拳のパラパラ漫画(それはそれで感動するのだが……)のようで、
場所も、北海道、東京、沖縄、シンガポール……と目まぐるしく変化し、
それぞれのシーンに感情が追い付いていかず、困った。
脚本は林民夫なので、ストーリーに関しては瀬々敬久監督の所為とは言えないが、
『最低。』『菊とギロチン』のようなマイナーな作品では傑作を連発するのに、
東宝のような大手の作品になると別人のような不甲斐ない作品になるのは何故なのだろう。
製作配給会社の意向が大きくものを言い、
監督の個性が発揮しにくいということもあろうが、
このままではマイナーな作品でしか輝けない瀬々敬久監督……ということになってしまう。
ちょっと厳しいことを言ったが、
それも瀬々敬久監督作品ゆえのこと。
期待が他の監督よりも大きいのだ。

パラパラ漫画のようなストーリー展開ではあったのだが、
漣(菅田将暉)の方は北海道からほとんど動かず、
葵(小松菜奈)の方が様々な場所へ移動するので、
北海道の小松菜奈、


東京の小松菜奈、


沖縄の小松菜奈、


シンガポールの小松菜奈……と、


いろんな場所の、そして、いろんな表情の小松菜奈を見ることができて、

小松菜奈しか見ていない小松菜奈ファンの私としては実に楽しかった。

特に今回の『糸』では泣くシーンが多く、
本物の涙しか流さない主義の小松菜奈としては、
役作りが大変だったのではないかと推測する。
特筆すべきは、
信頼する友に裏切られ、シンガポールの日本料理店でかつ丼を食べながら泣くシーン。
「不味い!」と言いながら、その不味いかつ丼をかき込む場面は、
本作随一の名シーンと言ってイイであろう。



このシーンを見ながら、私は、映画『さよならくちびる』でカレーを食べながら泣くシーンを思い出していた。
『さよならくちびる』のレビューで、私はこう書いている。
この映画で、私が一番感心したのは、
ハルの手作りカレーを食べたレオが、ポロポロと泣き出すシーン。
繋ぎなしのワンカットで撮られているのだが、
レオ役の小松菜奈がカレーを食べ始めて、泣くまでが、見事なのだ。
私がいつも大事にしているのはそのときの感情で、それは小松菜奈としてじゃなく、役の感情です。実はもともと泣くお芝居は苦手で、気持ちを作るのに時間がかかってしまったりするんですが、絶対に妥協したくないなって思っていて。極端に言えばお客さんが見たとき、例え目薬でも分らないかもしれないけど、その後自分はずっと(泣けなかったことを)引きずっていっちゃうと思うし、自分に負けた気がすると思ったんです。(『坂道のアポロン』のパンフレットより)
だから本物の涙しか流さないと語っていた小松菜奈。
本作のこのシーンでも、流しているのは本物の涙だ。
しかも、短時間に、自然な感じで涙を流していた。
使われている映像が少ない場面でも、現場では長回しで撮っていただけたので、感情は作りやすかったです。私、カチンコが鳴るとすごい緊張しちゃうんです(笑)。顔がこわばったり、泣くシーンで余計な力が入っちゃったり。でも、塩田監督がカチンコを使わない方なので、自然な流れでお芝居ができました。カレーを食べるシーンでは、レオの奥にあるピュアな部分が言葉じゃなくて涙で出てきたんだと思います。
と語っていたが、
このシーンだけでも、私はこの映画を見る価値はあると思った。

本作『糸』でも、同じことが言えるかもしれない。
葵(小松菜奈)がかつ丼を食べながら泣くシーン……このシーンだけでも、
この映画を見る価値はあると思う。

漣(菅田将暉)が働くチーズ工房の先輩で、
後に漣と恋愛関係になる桐野香を演じた榮倉奈々。

『アントキノイノチ』(2011年)
『64 -ロクヨン-』(2016年)
以来の瀬々敬久監督作品だと思うが、
後半、病を得て、痩せて衰えていきながらも健気に明るくふるまう香という女性を、
実に巧く演じていた。
2016年に賀来賢人と結婚し、母親となってから、
役の幅が広がり、演技にも深みが出てきたように感じた。

葵(小松菜奈)の同僚であり親友で、
やがてシンガポールで葵と一緒に事業を始める高木玲子を演じた山本美月。

瀬々敬久監督作品では『友罪』(2018年)での、
益田(生田斗真)の元恋人で雑誌記者の清美役が印象に残っているが、
本作では、キャバ嬢、ネイリストなど、
葵(小松菜奈)と共に“お金”のために懸命に生きる女性を演じていて素晴らしかった。
“お金”に囚われる余り、失敗を犯すことになるが、
華やかで穏やかな顔立ち故に、その対比、落差が見事で、大いに楽しませてもらった。
小松菜奈の身長が168cmで、榮倉奈々が170cm、山本美月も167cmあり、
彼女らのスタイルの良さにも感嘆した。

山本美月は今月(2020年8月)瀬戸康史と結婚したばかりであるが、
榮倉奈々同様、様々な経験を経て、女優としてもう一段飛躍することを願ってやまない。

竹原直樹(成田凌)の2番目の妻・山田利子を演じた二階堂ふみ。

友情出演ということで、
出演シーンも短く、二階堂ふみという女優の良さがあまり表現されていなかったが、
今回は脇役なので、その控えめな演技が良かったのだと考えることにした。
本作では二階堂ふみの無駄遣い的な印象であったが、
後年、瀬々敬久監督作品を主演するかもしれないという楽しみを残した。
彼女に関しては、もう楽しみしかないのである。

鑑賞する映画は出演している女優で選ぶ主義の私なので、
今回は小松菜奈、榮倉奈々、山本美月、二階堂ふみの4人しか論じなかったが、
彼女たちに共通しているのは、九州・沖縄の血が流れていること。
榮倉奈々は鹿児島県出身、
山本美月は福岡県出身、
二階堂ふみは沖縄県出身、
そして小松菜奈は、彼女自身の出身地は九州・沖縄ではないが、
父親が佐賀県、母親が沖縄県の出身である。
考えてみるに、
吉田羊、深津絵里、松雪泰子、小西真奈美、満島ひかり、倉科カナ、仲里依紗、新垣結衣、橋本愛、橋本環奈、川口春奈、上白石萌音、森七菜など、
私が好きになるのは、九州・沖縄の血が流れている女優が断然多い。
これも熱い血のつながりがなせる業か……

話が変な方へ行ってしまったが、(コラコラ)
小松菜奈だけを注視していたものの、
本作『糸』を出演者の側から論じてみると、
案外、私は本作『糸』を褒めている。(笑)
やはり、映画ファンは見るべき作品なのだと思う。

小松菜奈、榮倉奈々、山本美月、二階堂ふみの他には、
菅田将暉、

倍賞美津子、

永島敏行、

田中美佐子、

竹原ピストル、

松重豊、

山口紗弥加、

成田凌、

斎藤工と、
何気に出演陣も豪華。

最後に、
傑作『岬の兄弟』の主演女優・和田光沙が、
街頭インタビューで令和になった感想を訊かれる一般市民の役で、
ほんの一瞬出演しているので、見逃さないように……
『菊とギロチン』などの縁で瀬々敬久監督作品に出たのだと思うが、
第6回 「一日の王」映画賞・日本映画(2019年公開作品)ベストテンで、
私が最優秀主演女優賞に選出した素晴らしい女優を、
ちょい役でキャスティングできるのは、瀬々敬久監督ゆえであろう。
瀬々敬久監督には、いつの日か、和田光沙を主役で傑作をものしてもらいたい。
期待を込めて記しておく。

あれこれ言ったが、
平成という時代を振り返るには絶好の作品だと思う。
映画館で、ぜひぜひ。